カーリン・アルヴテーゲン「喪失」
スウェーデン作家のミステリーを一気呵成に読了。
謎解きよりも現代スウェーデン事情に関心。抱える問題は日本と変わらない。以前はこの国に随分差異を感じていたが、どちらが変わったのだろう。
昔スウェーデンのマルティン・ベックシリーズという警察物ミステリー(サスペンス?)に夢中になった事がある。書かれたのは30~40年前。暗い主人公にユリシーズを重ねて読んだ。私の知っているスウェーデン情報はマルティン・ベックから得たものが殆どだったがこの「喪失」によってかなりの修正。
「喪失」は32歳のホームレスが主人公。彼女は殺人の容疑者として追われる事になる。
抑圧・いじめ・恋・神経症・祝福されない妊娠を経て15年前に彼女は路上に出た。疲れ切って電話で助けを求めた彼女に母親は金を送る約束をする。金だけを。
彼女は泥酔の日々を6年過し吐瀉物と排泄物の中で目を覚ます。
それ以降は身だしなみに気を遣い、時々は高級ホテルに滞在し欲ボケの男を騙して代金を支払わせたりもする。暖かいバスタブ、本物のベッドで眠れる彼女のシンプルな喜び。殺人事件はこのホテルで起こるが、その夜ゆっくり朝まで彼女を眠らせてくれた作家に私は感謝した。
幼い頃から否定され続けた彼女が、隠れ潜んだ学校の屋根裏で15歳の少年に出会う。ここからは急展開。引裂かれた息子と同じ年頃の少年が彼女の無実を信じ、彼女の話に耳を傾けてくれる。救い。
母親の職場、警察のコンピュータから事件の情報を取り出したりする少年はハッカーにもコネがある。この辺は情報の管理の杜撰さにツッコミを入れておこう。
コンピュータ事情や同性愛・臓器移植まで話が広がる。読み応え充分。
この作家の大叔母はリンドグレーンだそうだ。「長靴下のピッピ」は憧れだった。自立した子供。
私はいま自立しているのだろうか。
自立を考えるとフィンランドの作家トーベ・ヤンソンを思う。晩年を電気の無い孤島で暮した彼女の強さを思う。北欧の寒さを思う。マルティン・ベックの孤独を思う。ハッピーなロッテちゃんを思い出す。自分の幼年時代を思い出す・・・・。
読後も色々考えさせられる一冊だった。
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