わたしを離さないで Never Let Me Go
カズオ・イシグロには驚かされる。
この小説を福岡往復の車中で一気に読んでしまった。
非常に読み易い訳文なのに奇妙な言葉がそこかしこにあって気になりながら読み進む。
「介護人」「提供者」「ヘールシャム」「回復センター」etc.
そして奇妙な言葉の謎が少しずつ解き明かされる。
寄宿舎育ちの子供達の様々な思いが、成人した子供のひとり「介護人」キャシーによって語られる。
「保護官」と子供達、その関係や思い、学習やゲーム、健康診断。
子供達の心象の描写が息苦しくなるほどだが語られる日常から家族がすっぽり抜けている。
隔離された施設らしいのだ。
謎は少しずつ明かされていく。
哀しいストーリーだ。
多少自棄になっても子供達は逃げない。
運命を多少引延ばすことに些かの希望を持つが最終的にはその運命を受け入れる。
そこが哀しいのだ。
私達はよく逃げる。
障害からは逃げることが可能なかぎり逃げる。
人は自殺さえするのだ。
が、その子供達は逃げない。
「逃亡」の言葉さえ無いことがとても哀しい。
考えさせられる小説で、読みながら人の寿命やドリーの事を思い、
後味が悪かった箒木蓬生の「臓器農場」を思い出した。
箒木蓬生は問題提起をしただけで終わったが
カズオ・イシグロはその問題を芸術的に表現した。
訳した土屋政雄さんも凄い人だと思う。
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