ロング・エンゲージメント
エロスも十人十色。ソダーバーグに惹かれて出掛けたものの退屈だった。ウォン・カーウァイ、スティーブン・ソダーバーグ、ミケランジェロ・アントニオーニのオムニバス。
①娼婦に翻弄される若い仕立屋の話でチャイナドレスのお勉強。透けた素材のハイカラーには何と透明プラスチックの芯!びっくり。抑圧されたエロス。
②目覚し時計の宣伝マンの繰り返される夢。身繕いする女性が見えそうで見えない、届きそうで届かない。夢の中の分析医は何を覗いているのだろう、知りたい、知りたい・・・。
③イタリアの綺麗な風景や綺麗な車、美しい女性の裸や踊り、と絵が非常に美しいが監督が何を言いたいのかは判らない。エロスの具象。
やっぱりソダーバーグが一番近い感じ。目覚めた後のロバート・ダウニーJrの表情が秀逸。紙飛行機が繰り返しビルの窓から飛ばされるラストが全体を綺麗にまとめていたが、それでも途中眠くなった。
テーマは重いが脚本もカメラもキャストの全てが無駄なくテンポよく進む。出来過ぎ。
26年間海の夢を見続ける自殺志願の彼は勿論だが、彼が事故で動けなくなって以来支え続けた家族、父・兄・義姉・甥の其々の思いや生活がきちんと描き分けられいる。彼の周りには3人の女性も集まる。彼の意志を尊重しながらもやはり生きる事を選択して欲しいと願うボランティア、自らの将来を悲観しているがゆえに弁護を引き受けた病身の弁護士、生活苦から逃れようと彼に救いを求める2児の母。
人はいずれ死ぬ。老いは緩慢な死への歩みだが、人は望む形ではなかなか死ぬ事が出来ない。現代人の前途は病気だけでなくアクシデントも多い。大地震もあったし、先のJRの事故は強烈だった。殺人事件は頻発し、国家的レベルでの殺人は止む事がない。
人には自分の人生の最期を選ぶ自由が無いと言うのか。
世界には殺人のための道具が山ほど有る。刀やピストル・核ミサイルは殺人を目的に作られている。敵対する人は殺しても自分を殺してはいけないと言うのか。
年若い甥の「お祖父ちゃんは年をとって役に立たない」と言う台詞があった。主人公は敏感に反応する。役に立たない人間に生きる資格が無いと言うなら全ての人間がそうであろう。我々の人生は保護無しには生きてゆけない赤ん坊で始まり、死という自分の屍体の始末も出来ない形で終えるのだ。「役に立つ」の意味を考えさせられる。
生きる意味を考えるのなら、死も考えなくてはと思う。
冒頭のガリシアの暗い海、いつか行ってみたい。裁判のために遠出した主人公が流れる車窓から垣間見た風景のショットも綺麗だった。おまけだが、祖父役は毒気の抜けたハマコー・寡婦のロサは吉田日出子にそっくりで嬉しかった。